
2026年2月末、東京神保町の書泉グランデに立ち寄りました。
鉄道書の品揃えで知られる店で、鉄道好きにとっては一度は訪れてみたい場所です。フロアに並ぶ本の量は圧倒的で、国鉄・JRから私鉄、廃線記録、模型、DVD、時刻表まで、鉄道に関するものがとにかく揃っています。
棚を眺めていると、日本の鉄道文化の厚みを改めて感じます。
その中で、ふと手に取った一冊がありました。
中国鉄道の同人誌『大陸百鬼夜行2』です。
ページをめくると、そこには中国の長距離列車や寝台列車の乗車記が並んでいました。
読んでいるうちに、ふと自分が乗った中国の夜行列車のことを思い出しました。
その中でも大きかったのが、日本の長距離列車の風景が大きく変わってしまったことでした。

日本の鉄道から関心が離れた三つの出来事
少年のころ、私が鉄道に惹かれた理由の一つは、長距離列車の存在でした。
機関車が長い客車を牽き、夜通し走り続ける寝台列車。
そうした列車には独特の旅情があり、強い憧れを抱いていたものです。
しかし現在、日本では客車による長距離列車や寝台列車はほとんど姿を消しました。
ブルートレインの消滅、長距離普通列車の消滅、そして客車列車の消滅。
この三つの出来事は、私が日本の鉄道から少しずつ関心が離れていった大きなきっかけでもありました。

17歳の北海道旅行で感じた違和感
15~17歳の頃、毎年北海道を鉄道で旅していたことがあります。
でも17歳の時に列車に乗っていると、周囲の旅行者がずっと同じ行程で動いていることに違和感を感じるようになりました。
長時間停車の駅では、みんなが一斉にホームに降りてスタンプを押したり入場券を買ったりする。
まるでマニュアルのように同じ旅をなぞっているように感じられました。
さらに稚内のユースホステルで、宿泊ノートに並ぶ「最北端に来ました」という言葉。
でも稚内は北緯45度。地球規模で見れば、まだ真ん中あたりです。
そんな出来事から、「鉄道は日本だけではない」と強く意識するようになりました。

18歳、ヨーロッパ鉄道放浪
北海道の鉄道旅行に違和感を覚えた17歳以降、アルバイトで資金を貯め、18歳のときに初めて海外へ出ました。
約2か月、ヨーロッパを鉄道で放浪する旅です。
夜行列車に乗り、国境を越え、食堂車で食事をしながら長距離を移動する。
日本では味わえない鉄道のスケールに触れ、鉄道の世界が一気に広がりました。

外国鉄道、とくに中国鉄道への関心
日本の鉄道趣味誌には外国鉄道の記事がほとんど載らないため、外国の鉄道情報に触れる機会は多くありません。
最近ではFacebookなどでフランスやアメリカの鉄道グループの投稿が流れてくることがありますが、現地語ではありますが、外国の鉄道の写真や動画に見入ってしまいます。
そんな中、今回、書泉グランデの棚の端にぽつんと置かれていたのが
『中国鉄道倶楽部 Vol.02 大陸百鬼夜行2 ~寝台列車ロマン紀行~』でした。
日本の鉄道本の海に沈む中で、その日唯一目に入った「外国鉄道」関連の本。
それも、中国の夜行列車に特化した同人誌です。
パラパラめくってみると、私が2019年10月に乗った北京→瀋陽の夜行列車(K53号)が掲載されているではありませんか。
著者(阿部真之さん/borgen広州さん)の乗車記には、私自身の体験と重なる部分もあり、思わずその場で購入してしまいました。
コロナ禍直前に訪れた「最後の中国鉄道旅」の記憶が、一気によみがえった瞬間でした。

なぜ私は中国鉄道に惹かれるのか
これまで中国を訪れた回数はたった3回ですが、目的はすべて「鉄道に乗ること」でした。
初めて訪れたのは2004年。
当時、中国では第五次大提速が行われ、直達特快(Z列車)という新しい高速夜行列車が登場したばかりでした。
私はその列車に乗るために訪中し、上海から北京まで走る夜行列車を体験しました。
そのときの記録は、当時のウェブサイトにも残しています。

直近では、2019年10月、コロナ禍直前に再び中国を訪れました。このとき乗車したのが、北京から瀋陽へ向かう夜行列車K53次です。
瀋陽では、満鉄「あじあ号」を牽引したパシナ形蒸気機関車(751号・757号)も実見しました。
少年時代に横浜で見た前進型(QJ形)蒸気機関車との再会もあり、鉄道の記憶がいくつもつながった旅でした。

中国鉄道の同人誌『大陸百鬼夜行2』
掲載されているのは
・北京~ウルムチ
・北京~ウランバートル
・上海~香港(高速寝台列車)
など、中国各地を走る寝台列車およそ20本の乗車記です。
さらに切符の予約方法や乗車方法など、実用的な情報として「中国鉄道旅行のトリセツ」も紹介されています。
特に印象に残ったのは、中国長距離列車ランキングです。
中国国内で最長距離を走る列車は、広州~拉薩(ラサ)、走行距離4,583km、所要時間約48時間という驚くべき列車でした。

北京〜瀋陽 夜行列車K53の思い出
2019年10月、私が実際に乗車した北京発瀋陽行きの夜行列車。
列車番号K53です。
高級軟臥と呼ばれる2人個室の寝台で、洗面台とトイレも備えた設備でした。
機関車が長編成の客車を牽き、大陸を北へ向かって走る夜行列車。
その振動と静けさの中で、モスクワや平壌へ向かう国際列車の歴史にも思いを巡らせていました。
国は違っても、夜通し走る客車列車の旅情は変わりません。
かつて日本でも当たり前だった光景が、中国には残っていました。

今も続く中国鉄道のスケール
中国では今も機関車が長編成の客車列車を牽き、国際列車も現役で走っています。
さらに青蔵鉄道のように標高5,000m級を走る路線もあり、同時に世界最大の高速鉄道網も整備されています。
日本では失われた鉄道の姿と、巨大な新しい鉄道ネットワーク。
その両方が同時に存在しているのが、中国鉄道の面白さなのかもしれません。

また中国の寝台列車に乗れる日が来るだろうか
とはいえ、今はなかなか中国へ行くことができません。
言葉の問題、キャッシュレス社会、そして日中関係など、旅行として訪れるには少し慎重になる要素もあります。
ただ、日本人向けのノービザ滞在は現在30日間認められており、2026年12月31日まで延長されています。
もし状況が落ち着いたなら、また中国の寝台列車に乗ってみたい。
そんなことを、この同人誌を読みながら思いました。
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