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台湾新幹線に20年ぶりの新型車両「N700ST」登場へ

 

台湾高鉄が新型車両「N700ST」を発表

2025年8月20日、台湾高速鉄路公司は新世代車両の正式名称を 「N700ST」 と発表しました。
「T」はTaiwanを意味し、初代「700T」の精神を継承しつつ、最新技術を取り入れた車両です。白を基調とした車体にオレンジと黒のラインが流れるデザインは、開業時の700Tを思わせながらも、より洗練された流線美を備えています。

この「N700ST」は日本のN700Sをベースに、台湾仕様にカスタマイズされたもの。2026年8月に台湾へ搬入され、試験を経て2027年下半期から営業運転を開始する予定です。

 

台湾新幹線誕生の背景

台湾新幹線(正式名称:台湾高速鉄道、THSR)は2007年に開業しました。

当初、このプロジェクトはヨーロッパ連合が落札し、線路や信号システムなどのインフラは欧州仕様で建設が進められていました。ところがその後、ドイツICEの大事故(1998年エシェデ脱線事故)や1999年の台湾中部地震が発生。これにより安全性を重視する世論や事業者の意識が一気に高まり、耐震性能を含む設計上の課題も浮き彫りとなりました。

この流れを受けて、台湾政府や高鉄側は「安全性を優先するなら日本の新幹線技術が不可欠」と判断。結果として、車両は日本の新幹線(700系をベースにした700T型)を導入したものの、インフラは欧州規格が多く残った「折衷型」の高速鉄道となったのです。つまり日本のように「線路・車両・運行システム」を丸ごとパッケージで提供する“純粋な新幹線”とは少し異なります。

そして開業によって、首都台北と南部の主要都市・高雄との345キロメートルを最速96分で結び、従来4時間かかった移動時間を大幅に短縮しました。台湾の交通環境やライフスタイルは、台湾新幹線の登場を境に一変したのです。


私の体験:開業直後の台湾新幹線

私が台湾新幹線に初めて乗ったのは 2007年12月。開業からまだ1年も経っていない時期で、台北〜左營の本格運用が始まって間もない頃でした。それまで板橋発着で本数も限られていた新幹線が、台北駅から本格的に走り出したタイミングでの訪問となり、私はこの区間を合計7回乗車しました。

このとき私は、擬似乗車ビデオを制作することを目的に、必要なシーンを撮影するために計画的に乗車しました。全区間乗車だけでなく区間乗車も組み合わせ、駅の発着や場面ごとの特徴を網羅できるように工夫したのです。

撮影した映像をもとに完成させたのが、**台北〜左營間を29分に凝縮した「擬似乗車ビデオ」**です。単なる走行シーンの記録ではなく、車窓風景や主要駅の様子、切符の買い方、停車駅ごとの特徴などを盛り込み、テロップで補足するスタイルを用いて「まるごと乗車体験」を味わえる作品に仕上げました。


www.youtube.com

YouTube文化の変化

アップロードから10年以上が経ちますが、この動画は私のチャンネルで唯一 100万回再生を突破しました。公開当初は「台湾新幹線」で検索すると常に上位10位以内に表示されていたのです。

ここで少し、当時のYouTube文化に触れておきたいと思います。
2000年代後半のYouTubeは、今のような「収益化を前提とした配信プラットフォーム」ではなく、**動画投稿者にとっては「自分の記録や作品を公開する場」**でした。今でいう「ユーチューバー」という言葉すら存在せず、顔を出してナレーションを入れるスタイルはほとんどなく、画面にテロップを出して補足するスタイルが主流でした。一本の作品に数週間〜数か月をかけるのも珍しくなかったのです。私の擬似乗車ビデオも、まさにそうした「作品型」の一例でした。

それが近年になると、YouTubeのアルゴリズムや収益化の仕組みに合わせて、顔出し・ナレーション型のインフルエンサー的配信が主流となりました。更新頻度が重視されるため、一本一本の中身は薄くても定期的に投稿する方が伸びやすく、視聴者も「解説してくれる動画」を好む傾向が強まっています。

そんな時代の変化の中でも、当時「台湾新幹線を体験できる唯一の動画」として多くの方に見てもらえたことは、今の私にとって大きな財産です。


台湾新幹線の特徴とN700STでの変化

乗務員扉の有無

700T型には、日本の新幹線で当たり前に存在する「乗務員専用扉」がありませんでした。代わりに、すべての乗降口に車掌用の開閉スイッチが設けられ、どのドアからでも操作できるという台湾独自の方式でした。

ところが今回の新型「N700ST」では、完成予想図を見ると 日本式の乗務員扉が復活しています。700Tとの大きな違いであり、日本式の安全動線や標準仕様に合わせた改良と言えるでしょう。

博愛座と非常口座席

台湾新幹線には、日本の新幹線では見られないユニークな座席設備があります。

  • 博愛座(優先座席)
    各自由席車両の台北寄りに1列5席設けられており、座席カバーにも「博愛座」と表示されています。妊婦、高齢者、障がい者など優先が必要な方のための席で、日本の「優先席」にあたります。

  • 非常口座席
    各車両に設けられ、非常時には窓ガラスを割って脱出できるようハンマーが備え付けられています。欧州の鉄道では珍しくないものの、日本の新幹線では導入されていないため、台湾新幹線の「欧州規格を感じさせる」特徴のひとつです。

これらの設備は、台湾新幹線の「思いやり」と「安全性」を象徴する存在といえるでしょう。

驚きの構造:複単線(双単線)方式

台湾高鐵には、ちょっと意外な仕組みがあります。複線なのに、どちらの線路も双方向に走れる「複単線(双単線)」構造なのです。

片側の線路が工事や点検で使えない時でも、もう一方だけで上下列車をやりくりして運行を続けられる――運行を止めないための工夫が、線路の設計そのものに組み込まれています。

そしてこの仕組みを応用すれば、同じ方向に2本の新幹線を並走させることも理論上は可能です。時速300kmの列車が横に並んで駆け抜ける姿を想像すると胸が高鳴ります。ただし、これはあくまで「仕組み上できる」という話で、通常運用として行われることはありません。

一方、台湾の在来線ではこの仕組みが日常的に活用されています。普通列車の横を特急が隣の線路からスッと追い抜いていく――そんな光景は台湾では当たり前で、日本の鉄道に慣れた目には驚きのシーンに映るでしょう。

 

「複単線(双単線)」区間での並走しての追い抜き!(在来線)

N700STの新機能

N700STはデザインだけでなく、機能面でも進化します。

  • 座席に充電用コンセントを標準装備

  • 車内案内はフルカラーLCDに刷新

  • 哺乳室の設備拡充、車椅子席を4席から6席に増加

  • 車体の軽量化と静粛性の向上

安全性・快適性・利便性のすべてを底上げし、台湾新幹線の次の時代を担う存在となります。


台湾鉄道の新たな話題

台湾では高速鉄道だけでなく、鉄道文化の保存にも新しい動きがあります。

  • 国立鉄道博物館(台北)
    台北の旧・台北機廠跡地に設けられた国立鉄道博物館が、2025年7月31日に第一期を部分開館しました。

  • 0系新幹線の保存(台南)
    台湾高速鉄道建設時に軌道測定用として輸送された日本の**初代0系新幹線・先頭車(21-5035)**が、2023年12月から高鐵台南駅近くで保存展示されています。

  • 台湾高鐵探索館(桃園)
    高鐵の歴史や技術を紹介する施設として、桃園市中壢区に2017年1月5日開館。運転シミュレータや模型展示などが楽しめます(入館無料・要予約)。

夜行列車の象徴だった583系寝台電車の中間車2両もこの国立鉄道博物館で展示され、鉄道文化の新たな姿を示しています。


まとめ:N700STを見に、再び台湾へ

700Tの登場から20年。次世代のN700STが走り始めれば、台湾新幹線は新たな時代に入ります。

私にとって台湾新幹線は、動画づくりや旅の思い出と深く結びついた存在。
N700STが営業を開始した暁には、再びカメラを手に、新しい擬似乗車ビデオを撮りたい――そう強く思っています。

 

【台湾新幹線擬似乗車ビデオ ニコニコ動画バージョン】

コメントが7000以上ついていて、コメントを読むだけでも楽しめます!

www.nicovideo.jp

 

 

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