
福岡空港。羽田から到着した星のマークをまとった一機のワイドボディ機が到着ターミナルへと向かっていく。
それは、かつてスカイマークが運航していたエアバスA330。
贅沢すぎる座席、目を引く制服、そして当時のスカイマークの壮大な国際線構想。
すべてが“幻”として記憶に残る、短くも鮮烈な挑戦だった。

<ミナ>
「スカイマークって、小さめの737で飛んでる印象だけど……
この飛行機、すごく大きいね!」
<汽車のり>
「これはエアバスA330-300。
スカイマークが2014年に導入した中型広胴機で、
羽田〜福岡・札幌・那覇といった幹線に投入されたんだ。」
<ミナ>
「へぇ……あんまり知らなかったかも。その機内って、どんな感じだったの?」
<汽車のり>
「全席が“グリーンシート”っていう特別仕様でね。
2-3-2配列、271席のゆったり設計。
JALのクラスJと同様の快適さで、レッグレストも付き、全席に電源も完備。
3号機からは無料Wi‑Fiサービスも搭載されて、 国内線としては、かなり先進的な装備だったんだ。」
<ミナ>
「ええっ、当時の国内線でWi‑Fiも電源も!? すごい……」

<汽車のり>
「しかも客室乗務員の制服もなんと、“ミニスカ”だった。
A330の就航キャンペーンに合わせて導入されたんだ。
性的な印象を与えるって批判もあったけど、着用は希望制。
とはいえ、A330便に乗務するにはミニスカ制服が前提だったから、
希望しなかったクルーは搭乗できなかったという話もあるよ。」
<汽車のり>
「……快適すぎるシートに無料Wi‑Fi、全席電源。しかもミニスカ制服。
**まさに、“乗り物マニアの夢と妄想をすべて詰め込んだ一機”**といっても過言じゃなかった。」
<ミナ>
「強制じゃなかったんだね。でもインパクトは強かったかも……。」
<汽車のり>
「制服も機内も、すべてが“これまでにない”試みだった。
スカイマークって、もともとはシンプルなサービスで価格を抑えるスタイルだったんだけど、
このA330は、むしろ快適性を最重視した例外的な機材だったんだ。
いわば、“スカイマーク流・プレミアム”を体現した存在って感じだね。」
<ミナ>
「でも、それだけ豪華にしたら、チケットも高くなりそうじゃない?」
<汽車のり>
「普通はそう思うよね。
でもA330は、ボーイング787とかA350みたいな最新鋭機よりも導入コストが4割くらい安かったんだ。
しかも実績のある安定した機体だから、高品質な“グリーンシート”を載せても、手頃な運賃が実現できた。
“最新型じゃなくても、賢く選んだ機体で勝負する”っていうのが、スカイマークらしい判断だったんだ。」
<ミナ>
「そのグリーンのシート……今見てもオシャレだし、乗ってみたかったなぁ。
汽車のりさんは、実際に乗ったことあるの?」
<汽車のり>
「いや……この機体は、就航からたった7か月半で退場してしまってね。
残念ながら、乗る機会を逃したままなんだ。
だからこそ、“幻の機材”として、今でも心に残ってる。」
<ミナ>
「えっ……たった7か月半?
せっかく新しい飛行機を導入したのに、それって早すぎるよね?」

<汽車のり>
「うん。そう思うよね。
でもね、その背景には――A380導入の失敗っていう、大きな問題があったんだ。」
<ミナ>
「A380って、あの世界最大の旅客機だよね?
スカイマークがそれを使うつもりだったの?」
<汽車のり>
「そう。しかも当時のスカイマークって、国際線を1本も飛ばしたことがなかった会社なのに、
いきなり**“成田〜ニューヨーク線”にA380を投入する**っていう、壮大な夢を描いてたんだ。
JALやANAよりもリーズナブルな価格でA380に乗れるかもって、乗り物好きとしてはワクワクしたし、
当時、日本の航空会社でA380を導入していたところは一社もなかったから、期待も大きかったんだ。」
<ミナ>
「え〜、それはすごい……でも、やっぱり無理があったのかな。」
<汽車のり>
「うん。運航準備も提携先も整わないまま、先に6機も発注してしまって……
2014年7月にエアバスが契約を解除。
その違約金は最大700億円とも言われてる。
さらに当時は急激な円安で、リース料も燃料費もドル建てで跳ね上がった。
その負担に耐えられず、2015年1月29日に民事再生法を申請。
そしてA330も、1月31日で全機運航停止になったんだ。」
<ミナ>
「A330も巻き添えになっちゃったんだね……。」
<汽車のり>
「そう。導入されたばかりの新しい機体だったのに。
3月にはリース返却も始まって、
その間、福岡空港で静かに佇んでいたA330を、僕も実際に見たよ。
エンジンにカバーがかかって、もう二度と日本では飛ばないんだなって……
まるで、スカイマークの“夢の終着駅”のようだった。」
<ミナ>
「なんだか切ない話だね……。」
<汽車のり>
「制服、座席、機材、そしてA380……。
どれも“常識を超えた挑戦”だったんだ。
でも、それが全部重なったとき、経営としてはリスクが大きすぎたのかもしれないね。」
一度でよいから、あのグリーンシートに座ってみたかったな……。
でも、それが“幻”だったからこそ、強く記憶に残ってるのかもしれない。」
<ミナ>
「ちょっと背伸びしすぎたのかもしれないけど──
その背伸びが、夢を描いてた証だったんだね。」
✈ 星を描いた広胴機、そして見果てぬ夢──
それが、スカイマークA330の物語だった。

<前回のミナ旅>