旅と風景、ときどき列車

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「サロンカーなにわ」が初めて東京駅に来た日──走る応接室の42年と今後《AI嬢ミナと語る 010》

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東京駅に姿を見せた深緑の客車。その展望デッキには金色の手すりが輝き、まるで“走る応接室”のような雰囲気を放っていた。
1983年にデビューした「サロンカーなにわ」は、当時まだ珍しかった欧風デザインのジョイフルトレイン。その豪華さと優雅さは、今でも多くの鉄道ファンの記憶に残る存在だ。
今回の「AI嬢ミナと一枚の記録から」は、そんな「なにわ」が初めて東京駅に姿を現したあの日を、一枚の写真をきっかけに語り合う。

 

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<ミナ>
「ねぇ、この列車……展望デッキに金の手すり、深い緑の車体。すごく特別な感じ。“なにわ”って書いてあるけど……この列車、なに?」

<汽車のり>
「サロンカーなにわ。1983年にデビューしたイベント用の客車列車で、この日は東京駅に初めて乗り入れたときの写真なんだ」

<ミナ>
「東京に来るって、そんなに特別なことだったの?」

<汽車のり>
「デビューしたばかりで、全国へのお披露目を兼ねた団体列車が走って、その一環で東京にも来た。関西の新しい豪華なイベント列車が首都圏に現れるってことで、注目されたんだよ」

<ミナ>
「この列車って、最初からこんなデザインだったの? それとも……何かを元にしてるの?」

<汽車のり>
「“14系”っていう客車がベースになってる。もともとは臨時列車や団体列車用の“波動用”って呼ばれる形式で、冷房付きの長距離向け。見た目は特急型だけど、定期運用には使われてなかったんだ」

<ミナ>
「そういう車両が余ってきてたの?」

<汽車のり>
「そう。当時は急行や普通列車の客車がどんどん減ってきて、使われなくなった客車がたくさん出てきた。それを活かす形で、全国で“ジョイフルトレイン”って呼ばれるイベント用の改造車両が次々に登場したんだ」

<ミナ>
「こういう列車って、みんなこんな洋風だったの?」

<汽車のり>
「いや、むしろ和風の“お座敷列車”が主流だったよ。畳敷きで座卓を置いたスタイルが多くて、“なにわ”みたいな欧風のデザインは少数派。その中でも初期に登場した本格的な例だったんだ。ファンのあいだでは“走る応接室”って呼ばれてたこともある。展望デッキに金の手すり、大きな窓、シャンデリア風の照明……まさにそんな空間だったよ」

<ミナ>
「たしかに、この雰囲気は……応接室って言いたくなるね」
「この展望車って、いつも最後尾についてたの?」

<汽車のり>
「いや、“なにわ”は両端が展望車になってるんだ。だから進行方向によって、片側の展望車の前には機関車が連結されるよ」

<ミナ>
「東京駅にこんな列車が来たら、そりゃ目立つよね」

<汽車のり>
「昼間にホームで見る客車列車は、当時すでにすごく少なくなってたからね。ブルートレインはまだそれなりに走ってたけど、昼間に客車が東京駅に来るのは、もう珍しくなってた」

<ミナ>
「この列車って、皇族の方が乗ったこともあるの?」

<汽車のり>
「あるよ。天皇皇后両陛下が“なにわ”にご乗車された記録が残ってる。そのために、1号車の窓ガラスは防弾仕様になってて、2号車のトイレは洋式に改造されたんだ。“お召し列車”としての運用も考慮されて整備されてるんだよ」

<ミナ>
「そこまで考えてつくられてたんだ……。じゃあ今も、大事に使われてるの?」

<汽車のり>
「うん。2025年の今も現役で、イベント列車や貸切列車として走ってる。ついこの前の5月には、“サロンカーみずほ”って名前で熊本まで運行されたんだよ。『熊本ディスティネーションキャンペーン』に合わせて、大阪から熊本まで、東海道本線山陽本線鹿児島本線筑豊本線を経由して走った」

<ミナ>
「えっ、熊本まで!?」

<汽車のり>
「“なにわ”が北海道に乗り入れた記録はないけど、北は青森、南は鹿児島まで。四国も走ったことがあるよ」

<ミナ>
「この写真って、初めて東京に来た日の記録なんだね」

<汽車のり>
「うん。この日、展望デッキも塗装もピカピカで、本当に誇らしい姿だった。東京駅に立つ“なにわ”の姿は、今でも忘れられないよ。……ほら、となりに103系京浜東北線が写ってるでしょ? それも今となっては貴重な記録だよ」

<ミナ>
「この一枚、大事にしようね。もう同じ景色は、見られないかもしれないから」

<汽車のり>
「うん。“なにわ”もデビューからもう42年。もとの14系時代から数えたら、さらに年季が入ってる。最近は“そろそろ引退かも”って話も聞こえてきててね……」
「いつか見られなくなる日が来るかもしれないけど、そのときまで、大切に見送りたい。そんな気持ちで、写真を残してるんだ」

<ミナ>
「うん……わたしも、しっかり覚えておきたいな。この列車のこと」


【補足説明】
・サロンカーなにわは、JR西日本保有するジョイフルトレインで、1983年に7両編成で登場した。
・車体は深緑に金のラインが入り、両端には展望デッキ付きのスロフ14形を連結。内装は欧風の豪華な仕様で、“走る応接室”とも称された。
天皇皇后両陛下が乗車された実績もあり、その際の対応として1号車には防弾ガラスが装備され、2号車には洋式トイレが設置されるなど、お召し列車としての運用にも対応している。
・2025年現在も現役で走っており、イベント列車や貸切列車として全国を巡っている。直近では、熊本ディスティネーションキャンペーンにあわせて「サロンカーみずほ」として大阪から熊本まで運行されたばかりだ。
・しかし、登場からすでに42年。種車となった14系の経年も重なり、引退のうわさも聞かれるようになった。いつか見られなくなる日が来るかもしれないが、それまではその走る姿を大切に見届けたい。

 

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