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さんふらわあ夕方便で大洗へ|苫小牧~大洗フェリー40周年と乗船体験記

2025年9月12日、3日間の北海道滞在を終え、苫小牧西港から大洗行き「さんふらわあ」の夕方便に乗船しました。
首都圏と北海道を結ぶ移動は、通常は飛行機が主役です。しかし人以外の物流の大部分は貨物列車や船が担っており、その現実を自分の身体で体感してみたいと前から思っていました。ちょうど翌日が休みとなる金曜日に時間が取れたことから、今回ようやくその思いを実現できたのです。
大洗~苫小牧航路は今年で40周年。旅情派の夕方便を選びましたが、実際に乗ってみると船長の出港アナウンスやパブリックスペースの混雑、そして電波が途絶える時間など、体験して初めて気づく点がいくつもありました。
この記事では、夕方便と深夜便の違いも含め、苫小牧から大洗までの実際の乗船記をお伝えします。

大洗~苫小牧航路 40周年

商船三井さんふらわあが運航する大洗~苫小牧航路は、1985年の就航から2025年で40周年を迎えました。2025年3月16日には40周年記念式典が船内で行われ、大洗港の関係者も出席して祝賀が行われたそうです。北海道と関東を直接結ぶ唯一のフェリー航路として、長年にわたり多くの旅客と貨物を運び続けてきました。

苫小牧から本州へ向かうフェリーは他にも複数あります。今回利用した大洗航路(1日2便)のほか、仙台・名古屋航路(1日1便)、八戸航路(1日4便)、さらに苫小牧東港から敦賀航路(1日1便)、秋田・新潟・敦賀航路(週1便)があります。まさに北海道と本州を結ぶ「海の大動脈」といえる存在です。


夕方便と深夜便の違い

大洗航路には、夕方便と深夜便の2種類があります。

  • 夕方便
    旅客サービスが充実しており、船内レストランが営業しています。
    客室タイプも「スイート」「プレミアム」「スーペリア」「ステート」「ツーリスト」など幅広く用意されており、船旅そのものをゆったりと楽しみたい人向けです。

  • 深夜便
    効率的な移動を重視した便で、レストラン営業はなく、売店や自販機が中心です。
    客室も「コンフォート」「カジュアルルーム」「ツーリストベッド」などシンプルな構成で、トラック輸送やビジネス利用が多いのが特徴です。
    その代わり、レストランに代わる大きなホールや座席が多く配置された展望ラウンジがあり、パブリックスペースの充実度では夕方便を上回ります。

つまり、夕方便は旅情重視、深夜便は実用性重視といった色分けがはっきりしています。


出港と乗船手続き

苫小牧出航は定刻18時45分ですが、徒歩客は17時30分頃までにターミナルに来るよう案内されていました。私はそれに気づかず、17時50分頃に到着。受付は18時までとのことで、やや冷や汗をかきました。

予約はインターネットから行いました。予約時に発行されたQRコードを、ターミナル窓口で読み込んでもらい、磁気カード式の乗船券を受け取ります。このカードを持って乗船口の改札機に通す仕組みです。

そして18時45分定刻の出港予定でしたが、この日は15分早い18時30分に出港しました。


船長のアナウンス

出港直後、船長からのアナウンスが流れました。

「明日は天候が乱れる予報で、すでに大きな揺れが予想されています。
しかし本日の便は天候の影響を受けず、穏やかな航海となる予定です。
今日ご乗船の皆様はラッキーです。」

こう告げられると安心感が広がり、心強さを感じながら船旅が始まりました。


船内設備 ― レストランと展望浴場

夕方便の魅力のひとつは、レストランが営業していることです。

  • 夕食バイキング:18:45~20:45(L.O.20:15)、大人2,300円

  • 朝食バイキング:7:30~9:30(L.O.9:00)、大人1,400円

  • 2食セット券:大人3,200円

また、展望浴場とサウナも備わっており、

  • 乗船時~23:00

  • 翌朝6:30~下船時まで利用可能

大海原を眺めながらの入浴は、フェリーならではの楽しみです。


コンフォート客室とパブリックスペース

今回私が利用したのは、リーズナブルなコンフォート客室(カプセルタイプ)です。他社フェリーのカプセルタイプと違い、各ブースにはテレビが備え付けられていたのが特徴でした。地上波のチャンネルには北海道、岩手、宮城、茨城の放送局が登録されており、どれかが映っていたように記憶しています。

横になって休むには十分ですが、座って過ごす場所は客室内にはありません。そのため、食事や読書をするときにはパブリックスペースを利用する必要があります。

ところが実際には、パブリックスペースは持ち込みで食事をする人たちでほぼ満席でした。仙台航路の船に比べると座席数も少なく、空席を探すのに苦労しました。結局、椅子が埋まっていると自分のカプセルに戻って横になるしかありません。

夕方便は旅情派の便であるはずですが、この点はやや残念に感じました。レストラン営業の時間以外に、レストランをフリースペースとして開放してもらえるとありがたいと思いました。

一方、深夜便にはレストラン営業がない代わりに大きなホールが設けられていて、さらに展望ラウンジにも多くの座席があります。ですので、コンフォートを利用するのであれば、むしろ深夜便の方が快適に過ごせるかもしれません。


航海中の電波事情

苫小牧を出て30分もしないうちに、陸地が遠ざかって携帯電話の電波は圏外になります。夜19時頃から翌朝6時頃まではほぼ電波が通じません。翌朝になると岩手県沖に近づき、かろうじて電波が復活しますが、コンフォート客室の奥まった場所には届きません。スマホの通知を確認するには、窓際のパブリックスペースに行く必要がありました。

不便にも感じますが、考え方によってはこれは**「デジタルデトックス」の時間です。通知やネットから解放され、波の音や船の時間に身を任せられるのは、フェリー旅ならではの魅力でもあります。
そうは言いながらも、最近は
スターリンクを導入するフェリーも登場**しています。これが広がれば、安心感を持って船旅を楽しめるようになるでしょう。


到着 ― 早着の驚きと下船の遅さ

大洗到着は定刻14時の予定でしたが、実際には13時10分に着岸しました。なんと50分も早い到着です。出港も15分早かったため、全体的に順調な航海だったようです。

しかし、着岸から下船までは時間がかかり、実際に下船できたのは20分後の13時30分頃でした。これまで利用した阪九フェリーや名門大洋フェリー、東京九州フェリーと比べると、下船までに時間がかかる印象を受けました。

さらに、フェリー接続の大洗駅・水戸駅行きのバスは定時に合わせているため、早着してもすぐには出ません。私は徒歩で大洗駅まで約1.5kmを歩きましたが、北海道から戻った身体には茨城の蒸し暑さがこたえました。


船旅を終えて

40周年を迎えた大洗~苫小牧航路。夕方便は確かに「旅情派」の便であり、レストランや多彩な客室、展望浴場など魅力的な要素がありました。しかし、コンフォート利用者にとってはパブリックスペースの不足や電波事情など、やや不便を感じる場面もありました。

それでも、出港時の船長の「ラッキーです」という言葉の通り、穏やかな航海に恵まれ、快適に本州へ帰ることができました。飛行機では見えない物流の現実を、自らの体で感じ取れたことも大きな収穫です。
機会がまたあれば、次は深夜便に乗り、また違ったフェリーの顔を体験してみたいと思います。

 

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